Sunday, December 16, 2012

パタゴニアで暮らすきっかけ 1



VW:最初ここに来たのはいつ?

木乃実:最初に来たのは、2007年の三月。だから今から五年前。
結婚した時にポールが「世界で一番綺麗な場所を見つけて、そこに家を作ってあげる。」と言って、
それからずっと場所を探していたの。
メキシコに住んだりね。

メキシコもすごく綺麗で、大自然の山の中で暮らしていて良かったんだけど、
やっぱりレボリューション(革命)があったり、治安がいまひとつで、「ここじゃないね。」ということになった。

ポールがある日突然「チリのパタゴニアってどう?」と言ったの。
「行ったことないし、わかんないなぁ。」と言ったら、見せてくれ写真の風景がちょうどこういう風景だったのね。

川があって、森がすごく広がっていて、緑があって山があって雪が降っているきれいな景色。
その時の印象が、クリーンなエネルギーですごくいいとこだなと思った。
それでパタゴニアへ来て探し始めたの。

五ヶ月間、アンデスの山に近い小さな村にキャビンを借りて住んでいて、もう冬だったから雪の中を馬に
乗せてもらって、山を2時間くらい登って土地を探しにいったりした。

その馬で連れて行ってもらった家が、日本でいったら物置を少し大きくしたような小屋だったの。
羊を飼っている羊飼いの兄弟が二人住んでいるんだけど、そこへ行ったら「さあさ、どうぞ。」って言われてね。
薪ストーブがついていて、お湯がしゅんしゅん沸いていた。マテ茶を入れてくれて、チリの人は
マテ茶を回し飲みするんだけど、マテ茶を勧められたらお客さんどうぞ、っていうことだと聞いたの。
勧められているから、ちょっと歓迎されてるんだなと思った。

そこは電気がないから、ロウソクしかないのね。
もちろん携帯もないし、テレビもないし、電話もない。
電気とガスがないから、薪ストーブでご飯も煮炊きしている。

だけどすごく静かな、いままで車さえ通ったことのない場所だから、自然のエネルギーが強かった。
自然のエネルギーがすごく大きくて、人のエネルギーが小さいから、自然が生き生きしている感じががしたのね。

「ここいいねー」と言ったんだけど、結局売っていた土地が、横100メートルの縦1.7キロだった。
そんな細長いストリップじゃちょっと買えないよね。
三区画か四区画買ったら結構大きくなるよって言われたんだけど、そんな予算はなかったから買わなかったの。

わたし達が当たり前に思っていた、水道から水が出るというのではなく川のお水が木で作った箱の一段目に流れて入り、二段目三段目と流れてゆく。一段目はお水を飲用で、二段目はお皿を洗う用。

二日間だけお世話になったんだけど、そういう生活がすごく忘れられない、いい想い出になったのね。
「不便じゃないんだな。」と思った。
不便でもちろん大変だろうけど、わたしにとってはとても、自然と自分が対等に真摯に生活しているって感じがしたのね。

文明の利器やマシーン(機械)やいろんなもので、わたし達自身人間として持っているパワーより
もっと大きなパワーで自然をエクストラクト(搾取)していく… そういう感じじゃなくて、手を使って… 手斧で薪切ったり… そういうのがすごく新鮮だったし、真摯な感じがしたんだと思う。

五ヶ月間雪の中を土地探していたけれど、なかなか見つからないからもうダメだねって諦めそうになった時に、
ポールが「でも絶対にここに僕は土地を買わなきゃいけない気がするんだよ。」と言ったの。
「どういう所が欲しいか、とにかく二人でちゃんとビジュアライズ(描き出す)してみよう。イメージをちゃんと作ってみよう。それで二人でエネルギーにフォーカスしよう。」
何となくって探していたけど、本当はどんな所が欲しいんだろうねって話した。

その話をした後にね、偶然何回も行ったり来たりしている間に、友達がいっぱい出来たのが
このラフンタという村なの。
ここで出会ったロドリゴという青年が、「見つかった?」って聞くから「全然見つからないよ。」って言ったら
「ここじゃダメなの?」と言うのね。
「ここすごくいいところだけど、誰も土地売ってないじゃない。」
「ラジオに出てみたらどうかな? みんなラジオでそういうお知らせするよ。」って彼が言うから、彼に通訳をしてもらってラジオに出たの。

その次の日からキャビンのドアをノックする人がいっぱい来た。
土地の権利書もってね。
「土地売ってるんですけどどうですか? 買うんですよね?」って言って。(笑)

40ヘクタールとか70ヘクタールとか150とか、すごく大きな牧場ばかりだったの。
「うちは1ヘクタール探してるんですよね。」って言ったら、ロドリゴが「あれ、友だちのおじさんが1ヘクタール持ってるって言うから、それを見に行ってみたら?」と言ってくれて、来たのがここだったの。

Saturday, December 15, 2012

パタゴニアで暮らすきっかけ 2




木乃実:ポールがここを(今の土地)上がってきてね。
あの風景を、その川と山のね、あの風景を見た瞬間に「買う!」と言ったのよ。値段も聞かずに。 (笑)

「いくらですか?」と聞いて、言われた値段はちょっと高いなって思ったのね。 
だけど彼はこの場でピンときたものを買わないと、手に入らないからと言って、それで買ったのね。
買った後に気がついたのよ。
二人でイメージしたこういう場所ねって言ったのが、川が二つあって合流して海へ流れて行くような、そういう風景が見える所で、目の前に雪山が見えたら最高だね、という場所だった。
「ここはわたし達がイメージしたのとおんなじ風景だね。」というのに後から気がついたの。

ああやっぱりそういう風なんだって思った。
自分がイメージしてエネルギーをフォーカスしたら、そこに自分が引き寄せられていくのか、
モノが引き寄せられてくるのか。
でもそういう目に見えない世界での不思議なマジックっていうのは、あると思うのね。
それが一つある。
それと同時に、もしかしたら自分たちが、いくつかある未来の中の、一つの未来にフォーカスして、
それを見ているのがこれだって思うのか、どちらかわからないんだけどね。

肉体のあるこの三次元の世界だけで解決しようと思っていると、解決できないんだけど、ちょっと目に見えない世界とか、エネルギーとか、自分が持っている思考のエネルギーってすごい強いとよく言うよね。
ネガティブなエネルギーを使ったら、ネガティブなモノがすぐ返ってくるとか、ポジティブなモノを発したら
すぐポジティブなモノが返ってくるとか。
意識して経験し始めるとだんだんわかってくるのね、まるで自転車乗るみたいに。
そんなふうに、この土地との出会いがあった。

最初にパタゴニアに来た時に、緑と青と白の三色の色っていうのはすごい印象に残っていたの。
それから家作りを始めるんだけど、それはまたそれでね、思うようにいかないことがあった。
例えば日本やアメリカでは、すぐホームセンターで買えるものが、ここは一番近いホームセンターが
バスで6時間行かないとないの。
そういう現実にもぶつかって驚いた。
結局一輪車やシャベルを買いに、300キロ離れた町まで行ったりね。
リアカー、バスに乗せて帰ってきたんだけどね。(笑)

想い通りにいかないこともたくさんあった。
雨がすごいの。 最初に来た時、六週間くらい雨が降ったのかな。
雨が多いのにもちょっとめげた。
わたしは最初、一輪車も押せないくらいチカラ弱かったしね。
シャベルを使った掘り方もよく知らない。

どうしてこんな所に来て、こんな大変なことしてるんだろうと思った時に、ふと顔あげるとこの景色があるのよね。
景色を見ると、「あぁやっぱりここにいられることは幸せだ。」とすぐに思うのよ。(笑)

この大自然のエネルギーに… 最初に感じた、人が少なくて自然のエネルギーがいっぱいあるという、
その自然のエネルギーにすごく助けられてきたなぁって感じがする。

この土地はもともと牧場で家畜を放牧していたから、牛や羊が歩き回って、すごくボコボコになっていたのね。
木も全部切られていた。
羊や牛に草を食べ尽くされていた。
すごくダメージのある土地だったんだけど、だからいいなぁとポールが言ったの。

利用されて使われ尽くして、ちょっとヘトヘトになってお疲れさんな感じの土地だから、僕たちがこの土地を
どんどんどんどん美しくしていくことが出来るんだよねと言ったのね。
家を作る、自分たちが住むシェルターを作るとか、食べるための食べ物を作るっていう、自分たちの生きていく為の土地でもあったんだけどね。
同時に、ここをもっともっと綺麗にして… 例えば一面花畑にするとかね。
まるで地上の天国のようだねって言われるような場所にしたいっていう、想いもすごくあったんだよね。

それが地球へ自分たちが還してあげられること。
今までずっと取り続けてきたからね。
やっぱりいつも還してあげることを、特にポールは考えているんだよね。

人間は地球に、何を還してきたかなってよく彼は言うのね。
取り続けてきたけど。
あまり自分が取り続けてるっていうことにも気づかず生きている人も多いし、
取り続けてお金を儲けて、もっともっとと取り尽くしてしまう人が多かった。
地球に還そうっていう人たちがまだ少ないんだけど、取るのを最小限にして
どんどん還していったら、地球が元気になるんじゃないかなと思う。

そういう想いがこの土地にはすごくあると思う。

Friday, December 14, 2012

想いを実現化する 1




木乃実:たぶんポールは20年間、地球を歩いてきて、自分の場所があったらこんなことをしたいって、
ずっと歩きながら考えていたと思うのね。
いろんな人のお家に泊まったときに、こういう風に素敵な場所に住んで、人を迎えてホスピタリティで
親切にしてあげる、そういう立場に自分はいつかなりたいなと思っていたと言っていたの。

彼が、もし自分の土地があったら、自由に好きなように、こういうイメージでこういう風に作りたいと
ずっと思っていたことを、エネルギーの世界で視覚化してきたものを、今実際に手を使い、身体を使い、土を掘り、重い袋を何段も何段も積み上げて、身体が持ってるフィジカルなエネルギーと一緒にして、
今ここに実現化してるという感じがするのね。

想いがあって、行動があって、実現化する。
そういうプロセスを三年間、ずっとやってきたような気がする。

出来上がったときはやっぱりうれしいよね。
「ああ 思った通りになったね。」って。

思った通りにならなかったこともあるんだけど、それは思った通りよりも、
もっといい結果になったりすることも多いよね。
「あー失敗した。間違えちゃったね。」っていうこともいっぱいあるのに、
間違えたからこそ、もっといいものが出来たっていうこともいっぱいあった。

例えばこのお家、最初に作るときは二人とも夢を大きく持っていた。

そこのお家のたぶん5倍くらいの大きさのお家を造るつもりだったの。
大きなドームを二つアースバッグで作って、まわりをアースバッグの壁で囲んで、ガラスで作ったグリーンハウスを作って、中にバナナなんかを作るような、トロピカルなグリーンハウスを作ろうと言っていた。
お堀を作って橋を作って… いろいろ思っていたんだけど、 ここね、ガラス窓も売ってないの。
床から天井までの、高さ4メートルくらいの素晴らしいガラス窓が欲しいねって言ってたけど、
そんなの売ってない。
持って来るとしたら、フェリーとトラックに積んで、ガタゴト道を何日も運んでこなくちゃいけない。
そんなの無理だね、となった。

出来ないことが多すぎる。
やりたいことがあるけど出来ないことが多すぎるとめげるじゃない?
それで、わたしはいつも「ああ できない。ああ モノがない。」と言っていると、
ポールが、「とにかく、出来ないことや、モノがないことを言うのはやめようよ。」と言うの。
前に進まないからね。
「出来ることは今なにか、今自分達が持っているモノ、ここにあるものはなにかで考えようよ。」と言った時に、
思考の大きな転換があった。

じゃあ、あるものは何か。 土はある。土で壁を作ればいいよね、となる。
大きな家を作るには、二人でやって出来ないことはないけれど、もっと時間がかかるかもしれない。
小さな家だったら、二人で短い時間で出来るからね。
人手があるのは今、二人だから、十人あったらって考えるのはやめようよ、って。(笑)
小さな家を作り始めたんだよね。

Thursday, December 13, 2012

想いを実現化する 2



木乃実:普通の土で作った壁があって、その外側には漆喰を塗ってみようと思って、やってみたんだけど、
雨が多いのでカビちゃって、すごくがっかりした…
思ってたイメージのものが出来ないということに、がっかりしたの。

どうして、こんなにうまくいかないんだろうと思った。
そうしたら、ポールが、「あるもので考えようよ。無いものは無いんだからさ。」って言ったの。

それで周りを見渡して、「ああ 草があるじゃないか。」とポールが言ってね。
アイスランドで昔から、草を切ってブロックにして、それを積んで作る家があるんだって。
アイスランドには、昔は森があったんだけど、切りすぎてしまい、木が無くなってしまった。
それで周りを見渡したら、草のブロックがあるじゃないとなった。
草のブロックで家を作って、あとは流木だけで、屋根の梁を作った。
もう、千年前にそういうことをやっているんだよね。
アイスランドの王様が住んでた千年前の家というのをネットで見たら、すごくビューティフルなの。
ポールはアーティストだから、ビューティフルなモノが好きで、「これはいいよ!」と言ったのね。
そうして出来上がったのが、これ(彼らの家)なのよ。

VW:これね。 全部この周りの草を積んで。

木乃実:そうそう。

VW:すごいね。どんどん(草が)伸びてるしね。 

(笑)

VW:そう(笑) 壁がどんどん伸びているのよね。

木乃実:壁を作って、ちょっと野菜を作り始めたら、野良犬とかウサギとかが入ってくるから、
何かでフェンス作らなくちゃね、ってことになった。
ここの人はみんな、木と針金でフェンスを作るんだけど、お金もかかるし、フェンスを作るのにフェンス屋さんに
頼んで作ってもらわないといけない。
どうもこのフェンスはビューティフルじゃないね、そう思っていた。
そしたら彼が、この草のブロックで壁も作ればいいじゃないかって思いついて、
あそこの壁を最初に作り始めたのね。
これ、ポールがひとりでやったのよ。

VW:あぁこの壁だね。

木乃実:うん。壁を作るのに草のブロックを取ると、地面が露出するじゃない?
そしたら彼が、「あぁここは、段々畑になるんじゃない?」って言ったの。
それで、段々畑。

一個やると次に副産物のものができて、これは、こうしてこうすればいいんじゃないかという風に展開していく。 
なんにも最初から計画していないの。いつもね、無計画で始まるのよ。
何となく、今これが欲しいねって作ると、そこからどんどん、有機的にね、オーガニックにアイデアが出て来て、
モノが繋がっていくのよね。

三年経ってよく考えてみると、最初にイメージした大きなお家の、作りたいと思っていたものを一旦全部諦めて、
新しいものを作り始めたんだけど、結果的にはその時にポールが欲しいねって言ってた要素が、全部、この小さな家とこのガーデンに入っていることにこの間、気がついたの。

お堀も最初作りたい、そこに橋を架けて、と言っていたことも、すっかり忘れていたのよね。
スイカとメロンを作るビニールハウスが欲しくて、ビニールハウスを作った。
それから畑用に貯水池を作りたくて、ビニールハウスの屋根から流れる雨水を溜めるための池を作ったら、 
その池に屋根の傾斜がうまく合わなくてね。
池と屋根を作ったんだけど、屋根の水が、全然逆の方向に流れてしまうような屋根になっちゃったの。
「あれ?」って。(笑)
屋根がプラスチックの固い屋根だったら、ちゃんと流れたんだけど、ビニールだから雨が降ると沈んでしまう。

「あぁ、失敗したなー」
出来上がる直前にそんなことになって、また二人で落ち込んだ。
「うーん」と考えていると、次の日にポールが「わかった!」と言ったの。

屋根の傾斜の逆方向に水が流れたけれど、その下に堀を作ればいいんだって。
それで、掘り始めたの。
掘り始めたら楽しくなったようで、すごく大きな、1メートル幅くらいの堀を作り始めた。
堀を作ったら、どんどん堀が伸びていって、玄関から下りていく坂道があるんだけど、その坂道まで堀が広がった。
「あー、もう坂道掘って、トンネル掘って、橋を作ろう。こんな風に上げられる橋。」とポールが言ったので、「あぁポール、それって五年ぐらい前に、作りたいって言っていたよ。」って言ったら、「そのとおりだね」って。

おもしろいよ。その時に思ったイメージを、彼は手放すのも早いのよね。
ダメだったら、ちょっと置いておくの。
執着しないのよね。
執着しないで置いておいて、その時にやれること、出来ることだけやっていくと、全然違ったカタチで、
思っていた夢がまた目の前に実現して現れてくるの。
それがすごく面白いなぁと思う。

自分が思っている夢、したいことを、こういったらこのゴールに辿り着く、と自分で一生懸命頑張って辿り着こうとするやり方もあるけど、そうすると、逆に、もしかしたら全然違う方向で、全然違うやり方で、
全然違うスペースから夢が自分の所に来る可能性を、閉ざしてしまうような感じがするからね。

実際に目に見えない世界で起こっていることって、自分が頭で考えていることより、
何倍も何千倍も大きな世界でモノが動いているからね。

こういうものが欲しいと思ったら、あったらいいなと手放して・・・しゃかりきにそこに向かっていくよりは、
「今、出来ることだけをやっておこう」とその時、出来ることをしてると、
ある日、ポコンと夢が叶っているってことがすごく多い気がするのね。

Wednesday, December 12, 2012

工夫して暮らす



木乃実:チリの平均月収が3万円くらいなのね。
パタゴニアのひと達の月収は、もっと低くて、現金で入ってきても2万円とか1万円。
現金収入があればいいほう、みたいな感じなの。
土地はたくさんあって、牛もいるんだけど、現金が無いっていう人がたくさんいるのよね。

最初に来た時に、梯子が必要だった。
道具屋さんみたいな所に行って梯子を探したら、梯子売ってないのよ。
「梯子は、どこで買ったらいいのかな、また6時間先のホームセンターまで行くの?」と言いながらふと見ると、
家を作っている大工さんの梯子があって、よく見たら自分で作っているのよ。
トンカチと木材、角材で。
「あっ、作ればいいのか!」それで梯子を作った。

家具屋さんもないのよね。
テーブルや椅子をどうしたらいいんだろうと思い、ひとの家に行ってよく見ていると、全部自分で作っているのよ。
やっぱりそれも作っているのね。
「ベット、どこで買うの?」って言ったら、
「ベット? 作るでしょう。みんな自分で作ってるよ」って言われてね。
マットは買わなきゃいけないんだけど、マットの下の台を見ると、みんなその辺の、自分の森にあるような木で、
上手に作っているのよね。
「作るのは台だけじゃない。これ、シンプルよ。」って言われて、「あっ、なるほどね。」
結構、そういう新しい驚きが、いっぱいあった。

わたしは何でもね、「あ 買えばいいんだ。買わなくちゃ」という具合に、
買うっていうことをいつも思っていたのよね。
でもここでは「買いたい、買わなくちゃ」と思っても、モノがないから買えないわけじゃない?
買えないことは最初は不自由だったのに、だんだん買えない、買わないになっていって、
作ることが面白くなっていくの。
買えないことは、良かったなって今は思う。モノがないっていうこと、商品が売ってないっていうことは、
すごく良かったなって、思うようになった。
モノがないと作ろうとするし、発明しようとするし、工夫しようとするしね。

東京に生活しているときは、工夫して暮らすって感じは全然なかったね。
朝起きて、電車乗って会社行って、電車乗って帰って来て、スーパー行って買い物して、ご飯作って、お風呂入って寝る。
その中にあんまり工夫する余地はないし、「工夫」っていう言葉さえ忘れちゃうような生活だったと思う。

わたしが子供の頃は、モノ作るのが大好きだった。
あの頃、リカちゃんっていうお人形があって、みんなリカちゃんマンションっていう、リカちゃんのお家を
買ってもらって持っていたの。
だけどうちの父は、そういうの、すぐ買ってくれるタイプじゃないから、
そんな高いの買えないってずっと言っててね。

わたしは、みかん箱に段ボールの紙で壁を作って、台所作って、テーブルと椅子を作って・・・って、
自分でリカちゃんのお家を作っていた。
ハサミ使って、絵を描いてたり もともとモノ作りはすごい好きだったのよ。
だけど、そういうことを忘れていたの。

だからなんにも無い所に二人でポーンと来て、なんにも無い所から作っていくっていうのが、
すごく楽しかったのね。

水をやるのも、じょうろ買わなきゃってね、すぐ「買う」という発想だから、じょうろを買おうとしても、
どこにも売ってないのよね。
「じょうろって、どこに売ってるの?」って聞いたら「じょうろって、なに?」
はぁー、どうしたらいいんだろう… と思っていたら、あっ、空き缶!  
空き缶に穴開ければいいと思って、釘で穴開けてバケツからお水をいれて、水まきに成功。
ポールが「あー工夫してるねぇ」って言ってくれた。

そういう思考回路が、前は無かったのよね。

Tuesday, December 11, 2012

仕事と生き方がひとつになっている今



木乃実:わたしは、やっぱり、土を触って、庭仕事をして、野菜とか種まきしたり、
野菜植え替えたりしているときが、一番 一番っていうか、一番っていうとね そういうときは、とても幸せ。
うん、一番じゃないかもしれないけどね。
とても、幸せ。
順番は、つけられないもんね。
幸せなときはとても幸せっていう状態で、そういうことをしていると、その状態が来る、みたいな感じよね。

この間も、いろんなことが重なって、自分で自分の仕事量を増やしちゃってね。
「あー、もう出来ない!」と思った時に、「とりあえず畑だ。」
畑に行って、土をいじっていたら、スーッと気持ちがよくなった。
畑が終わった後に、すっかり、自分が何にイライラしていたかさえ、忘れてしまったのね。

畑ではわたし、手袋をしないんだけどね。
やっぱり、土を触って感じることって、すごく大事だなぁって思う。
最近、土を触ると鬱病の鬱の状態が良くなるような、気持ちが軽くなるような成分が、
土から出てくるってことがわかったらしい。
ほんと、土を触ると元気になる。科学的にもそうなんだろうしね。

わたし達はどこかから、エネルギーを充電しているんだろうからね。
ポールも元気が無くなると「ちょっと掘ってくる」って、外へ行ってシャベル持って、穴掘りにいくから。(笑) それで元気になって帰ってくる。
やっぱり、穴掘りとか、土いじりとか、ほんと元気になるのよね。

VW:自分の仕事で元気になるっていいね。

そうだね。確かにそのとおりだね。 
自分を元気にしてくれる仕事っていいよね。
自分がやっていることが、仕事と生きてることと、全部一体になっているっていうのが、すごくいいなと思う。

前にOLしていた頃は、会社に行ってお仕事して、お給料もらって、そのお金でご飯を食べて、電気代払って、
っていう生活で、お仕事はお金のため。
まぁ、自己実現のためっていうのも、ちょっとはあったけど、でも、メインはお金かな。
お金がないと生きていけないって思ってたから。
なにか支払う為に働いて そういうサイクルの中にいると、苦しくなっちゃったのね。
どんどん、お金を払う時に嫌な気持ちになるわけよ。
あぁ、貯金が減っちゃうとかね。

自分でお金を払って、そのお金の代わりに何か物を買ったり、サービスを受けたり、ご飯を食べたりしているのに、お金が出て行くことが、すごく嫌になってくるの。
それは、たぶん、「お金を稼ぐことは大変だ」と思っていたからだと思うのね。
すごく大変な思いをして稼いだものが、すごく簡単に出て行っちゃうような気がした。
それが、精神的にとっても苦しかった時はある。

だけど、自分で食べ物を作っているとね。
例えば、朝、畑に行って、ほうれん草と大根菜と、こんなにワサワサ育っているから、
ザルいっぱいに採って、野菜炒めで食べようか、という世界になる。
すると、お店に行って買うことをしなくていいから、どんどん楽になるよね。
ここに来てから、お店に行って買う回数が、すごく減った。
三週間に一回、お店に行けばいい方かな。
買い物しないで暮らしていけるのが、理想。(笑)

VW:もう、けっこうやっているよね。

木乃実:そうだね、食べ物は、結構、近づいて来ている。
あと、エネルギーは、ソーラーね。
それで、なるべくお買い物しないで、暮らしていけるのがいいなって思う。
そうすると、お金必要だから、お金どっかで稼がきゃという思考回路から外れるでしょう。
そうすると、すごく楽になるよね。

やっぱりお金って ほとんどの人がそうだと思うんだけど、お金は欲しいんだけど、重荷、みたいなね。
たくさんあればあるほどいいんだけど、お金を得る為に、自分をものすごく削りながら
生きていかなくてはならないイメージが、わたしの中にはあった。

そうじゃなくて、好きなことして、幸せいっぱいで、お金じゃなくてもね、今これが欲しい、
これが必要だと思ったモノが、手に入ればいいわけじゃない?
「そこに、お金が介在しないと、モノは手に入らない」と、わたしは思っていたけれどね。

そうじゃないんだっていうことが、わかってきた。
例えば、「スコップがないな、スコップを買わなくちゃ。」と思うと、お金が必要だと思うでしょう?
でも「スコップあるといいなぁ。」と思った時に誰かがね、
「うちのスコップたくさんあるからもっていく?」って、一つくれたらお金はいらない、とかね。(笑)

Monday, December 10, 2012

パタゴニア的オフグリッドライフ




VW:今音が聞こえている水場から水を持って来て、それでバケツに移して、
もしくは溜めてある水からバケツに移して、その缶で水やり 大変な仕事です。

木乃実:そうよね。お水も最初は水場からバケツで持って来ていたから、水やりも苦労だったのね。
太陽が出ると、「あぁ、水やり大変だぁ」って思っていた。
池を掘ればいいと、水を溜めたら、だいぶ水やりは楽になった。

水道を引いてないからね、蛇口からジャー、っていうのがないからね。
自分たちが一日に何リットル飲んで、スープ作ったり、ご飯作ったりするのか… だいたい一日8リットル
なんだけど… そういうのがわかってくるのね。
お皿洗いをするときも、川の水を使っていたんだけど、そうすると大変だから。
ある日、バケツを外に置いておいたら、屋根から雨が落ちて溜まった。

VW:ちょっと行ってみようか。

木乃実:うん、行ってみようか。

VW:お水はこの柵を越えて向こう側の水場に行くんです。森の中です。
それで、雨水は

木乃実:ある日バケツを外に置いておいたらね、雨が一晩降って、バケツがいっぱいになっていたのね。
あっ、こうすればいいんじゃない?と思って
これが皿洗い、顔洗い、 手洗い用のお水になりました。

VW:ここ手洗いで、このお水で、わたし達はお皿を濯いだりしています。

木乃実:中に入ってキッチンをみる?
外キッチン。
これが、わたし達の流し台。
これは、みかさんが言っていたけど、明治のおばあちゃんがやるのと同じやり方です。
たらいにお水を入れて洗ったら、外へ出して、お水を捨てて、きれいなお水を持って来て、濯いであげる、という、明治のやり方です。

VW:もちろん、冷蔵庫なんかはありません。

木乃実:冷蔵庫は、ありません。でも、日陰に置いておくと、だいたいモノは腐らないね。
冷蔵庫がないから、食べ残ししない生活にもなったね。
まぁ、もともとそんなに食べ残す人でもないけど。
たくさん作って、なくなるまで食べてね。

お肉は食べないし、お魚があるときは、要るだけ買って、サッと焼いて食べる。
冷蔵庫が必要で保存するものっていうのは、ないかもね。
牛乳も、飲まないしね。
チーズたまに食べるけど、ペーパータオルに包んで、タッパーに入れて置くと、
一週間か、十日くらい保つんじゃないかな。
卵は友だちのファームで放し飼いの卵を買うんだけど、それも、戸棚の中は日陰で、結構気温が低いから、
その中に入れておいたら十日か一週間くらい、楽に保つと思う。

戸棚も、外からの空気が出入りするようになっているから。
アースバッグって土を袋に詰めているから… 土は呼吸をするじゃない? 
戸棚の中の温度を測ったけど、11度か12度くらいだった。
戸棚の外はね、ストーブを焚いているから暖かいんだけど、戸棚の中はいつも同じ気温。

Sunday, December 9, 2012

湧き水を汲む



木乃実:今日は水の量が多いからすぐ溜まるけど、夏になって水が少なくなると、
タンクに溜めるのに結構時間かかるのね。
だから、雨が降らなくて晴れ続きになって、この水が少なくなると、すごく寂しくなるのね。
「雨降って欲しいな。」とすごく思う。

雨が降らなくて水が無いということに対して、すごい危機感を身近に感じるようになったのは、
ここで水汲みを始めてからだよね。
普通に生活をしていると、水道料さえ払えば、お水は出てくるからね。
ここではお金があっても、雨が無かったらお水はないの。

湧き水があるのはほんとうに有り難いよね。
美味しいしね。
チリは都会に行ってもお水美味しいほうだけど、やっぱりここで飲んでいると、
都会のお水が美味しく感じないよね。

Saturday, December 8, 2012

アースバッグのお話



VW:すごい暖かいこの中。

木乃実:あったかいね。今、何度くらいあるんだろうか

VW:これは、二人が工夫して作ったビニールハウスですね。

木乃実:あれが、アースバッグです。
ポリプロピレンで編んである、肥料を入れたり、ジャガイモを入れたりするのかな。そういう袋に土を詰めて、
横倒しにして、どんどん繋げていって、一回一列やったらコンパクトにするために、上からトントンと叩くのね。
その上に有刺鉄線をぐるっと二列入れて、二段目を積んでいくのよ。
二段目と一段目の間に有刺鉄線が入っているから、動かないようになっている。

VW:なるほどね。

木乃実: アースバッグって、基本はもうそれだけなの。

VW:これであの家が出来てるのね。

木乃実:それであの家が出来てるんですね。

VW:すごい。 でも考えようによっては、誰でも作れるっていうね。

木乃実:そう、誰でも作れる。
特にわたし達は、ここの土が粘土質だから、土の中には15%くらい粘土が入っていて、粘土だから
乾くとガチッとなるような壁を作ったのね。
袋が万が一破れても、50年か100年くらいは壁が保つっていうやり方をしたんだよね。

中はね、日本で言ったら鹿沼土っていうの?
これは火山が爆発したときの軽石。
こういうのを入れてもいいのね。これだとすごく軽いし、空気が中にいっぱい入っているから、断熱効果があるの。
うちは、二階の壁はこれで作っているのね。二階は、重さがありすぎると、一階に負担がくると思ってね。
これでもできるし、砂でもできるし、中はどんなものでもできるのね。
砂だと、袋が破けたら、砂が出てきてしまうということがあるから、袋が破れないように二重にしたりね。
壁を積んだ状態ですぐに漆喰を塗って壁を作るという、保護してしまうやり方もあるのね。
この袋は直射日光には弱いので、直射日光にだけ当てないようにすれば、500年くらい保つの。

VW:えぇ!

木乃実:そうそうそう。

VW:この袋はどこから買ったの?

木乃実:これ、サンチャゴから買ったの。

VW:サンチャゴにあるんだ。

木乃実:うん。作っている会社があって、直接買ったのね。最低千枚からっていうことで、最初に二千枚買った。
これもバスに乗って、次トラックに乗って、フェリーに乗って、はるばるやってきた。
うちは道がないから、メインの道路からみんなの肩に担がれて、やってきました。
(笑)

これは、水道なんかに使うパイプよね、PVCのパイプ。(屋根の骨組み)

VW:ああ、それを工夫して屋根にしてね。

木乃実:このビニールはUV加工してあるビニール。まぁこういうのは、地元の道具屋さんで買えるんだけどね。
こういう材木はここから10キロくらいのところに、材木を切り出している人がいて、
その人の所から買っているの。
この辺で一番たくさん生えていて、成長するのも早い、テパっていう木を使っているの。
水に濡れても腐らないように、クレオソートを塗っている。
虫が食べないように。ちょっと臭いんだけどね。

地元のもので、水に強くて、虫も食わないような材木もあるんだけど、それはすごく成長が遅いから、
あまり切りたくないからね。
ここに使っているティパっていう木はうちでも植えた。

VW:このグリーンハウスがあれば、冬でも野菜がたくさん採れる。

木乃実:うん、そうね。冬中ずっと、緑の葉ものが出来るよね。

Friday, December 7, 2012

お金のこと 今の暮らしのこと 1



木乃実:前の旦那さんが亡くなったのが、7月17日。彼の誕生日が6月27日だったのね。
その時、彼は40歳のお誕生日だったの。
彼の両親が、彼がバイクを乗るので、バイクは危険だからって、23くらいの時に生命保険を掛けてたものを、
ずっとわたしが引き継いで、受取人になって… 彼の生命保険を掛けてたの。

彼が40歳になる時に、選択があった。
40になると病気になったりするリスクも高くなるから、掛け金が倍になって、
万が一の時の受け取りも多くなるというもの。
入院費や死亡時の受け取り金が多くなるか、掛け金そのままにして、受け取りはずっとと減るという選択。

その時わたしは、「一人しか働いていないし、彼は病院を行ったり来たりしていて治療費もかかるし 
掛け金、倍かぁ。どうしようかなぁ」と思っていた。
多分、掛け金3万円が6万円に増えるとか、そんな感じだったのね。
うわぁ 辛いなぁと思ったんだけど、でも、そのまま続けた方がいいって、掛け金を倍にしても
続けた方がいいって、どうして思ったのかわからないんだけど、なぜかそう思ったのよ。
自分でそう思ったのか、ここら辺で誰かがささやいたのか、わからないんだけど
なぜか、そう思った。

わたしが保険会社に電話するんだけど、担当の人に
「それは旦那さんご本人から、聞かないといけないことになっているんです。」と言われたの。
掛け金を増やしても続けますということは、本人が言わないといけなかったのね。

それである日、保険会社から電話が来たの。
担当の人が彼に説明するのよね。
だけど、その時彼はもう、自分で何を考えているかわからないような状態だった。
「なに言ってんの?なに言ってんの?なんて言えばいいの?」ってわたしに聞くのよ。
「『はい』って言って。『はい』って言って。」って、わたしは言うの。
「なんで、ぼくは『はい』って言うの?」
「これから掛け金は多くなっても、また、入院退院を繰り返したりした時には、ちゃんと保険金が出るんだから。
これから、どんどん入院したりするかもしれないでしょう?だから『はい』って言ってよ。」
「ええ、わかんないよ、わかんないよ」って言いながらも、彼は「はい」って言うの。
『はい』って言って、電話は切れるんだけど、
その時に「あぁ、良かった、はいって言ってくれて」って思ったのね。
彼は、なんで自分が『はい』って言っているのかわからない状態で、『はい』って
言ったのね。
それから二十日後に亡くなっているの。

そんなこと(保険のこと)は、まったく忘れていたのね。
お葬式のあとに、保険屋の外交の女の人が来るのね。
「手続きです」と言って。
「保険、続けててよかったですね、奥さん。あの時やめてたら、 受け取りは今の五分の一くらいでしたよ。」って
言うのね。
「ああ そうだ」と思った。
あのとき、訳わからないままでも、『はい』って彼が言ってくれて、ほんとに良かったなって思ったの。
助けてもらったなっていうか… そんな気がした。

その時の保険のお金と、あと自分で掛けてた、養老年金や個人年金とか、
OLをしてた時に、わたしいっぱい貯金してたの。
そういう貯金が、今すごく役に立っている。
もうずっと、貯金だけで暮らしているからね。

貯金はどんどん減っていくのよ。
だけど面白いことに、貯金が最初たくさんある時には、「えー、お金が減っていく、減っていく。」って
すごい心配になるじゃない?
今までずっと、お給料入ってきて、使ってちょっと貯金して、貯金がちょっとずつ増えていくという決まった流れ。
何か、大きいなものを買う時にちょっと貯金が減るんだけど、でも、またお給料から貯金して・・・ 
わたしはコツコツ型の人だからね。
だけど、入ってくるものが全然無くて、出て行くだけっていうのはちょっと寂しくて、「どうなっちゃうの、
どうなっちゃうの?」と心配になった。
口座を見て、不安になっていたんだけどね。

ある時点を過ぎたらもう、あるものはあるんだから、あるだけ自分達が楽しんだり、
このお家に投資するのもそうだけど、これからの自分達の生活をもっと居心地よく暮らしやすくしたり、
楽しくしたりする為に、今あるんだから使えばいいじゃないってことに気がついた。

今あるのに「無くなったらどうしよう。ゼロになったらどうしよう。」と考えているのも、
エネルギーの使いどころが間違っているなっていうのがわかったの。

Thursday, December 6, 2012

お金のこと 今の暮らしのこと 2



木乃実:ポールは、全然逆だからね。「早く使っちゃおうよ!」みたいなね。(笑)
「世界の金融恐慌とか、銀行がクラッシュするとか。銀行にお金あってもどうなるかわかんないんだから、
早く使っちゃおうよ。使い切れないかもしれないじゃない。」なんて言うのよ。「えぇー」って。(笑)
「僕は、上手に使ってあげるから大丈夫だよ。」ってね。

確かに彼は、お金持ちの奥さんの運転手をしていた時に、彼女の予算の中で、世界中のいろんな素敵な場所に彼女を連れて行き、一流ホテルに泊まって一流レストランでご飯を食べて、すごくゴージャスな旅を提供してあげるようなことをしていたのね。

彼女は、すごいお金持ちなんだけど、それをだまして、横取りしようとする人たちから、
彼は、彼女を守ってあげていた。
ポールは、そういう、すごい巨大な富の中にもいたことあるのね。

その仕事を辞めて、自分は一文無しになって歩き始めて、結局、人からの好意で自分はずっと生きてきたという生活をしているんだけど、すごいお金のある世界とまったくお金のない世界をどっちも知っていて、
まったくゼロでも生きていけるっていう事も知っている。
だけど、何億円かあったら、その使い方も知っているのね。

だから、そういう意味で、彼の中にものすごい強さがあるよね。

わたしはお給料20万から30万の間で、貯金3万円。そのレベルしか知らないからね。(笑)
子供の頃に家の父親に「家は貧乏なんだからね、いろんなものは簡単には買えないんだからね。」って言われてね。
あとから、よくよく聞いてみたら、お給料が上がってるのに、お母さんにも言わないで、お父さんがお小遣いを懐に入れてたとかいう事があったりね。
「えー、お父さん、ステレオ自分で買ってるじゃないの!」そんな家庭で育ったから、チミチミしてるわけよ。(笑)

お金の使い方も、無駄にしないように、どちらかというとケチケチ使うような使い方を、
ずっとしていたと思うのね。
ポールみたいに、もう、使う時にはパーッと使って、「どっからか入ってくるよー!」っていうのは、
わたしには怖くてしょうがない。
「使っちゃって無くなっちゃって、入ってこなかったらどうするの?」
「まったく入ってこなかったら、バックパック背負って歩けばいいんだよ。」
「えぇー」(笑)
そんな感じ。

そういうお金の恐怖、お金への執着。ものすごい執着と欠乏の意識。
何かが無いという事の怖さ、何かが足りない、何かが無いという欠乏の意識とその恐怖というものが、
ほんとうに薄皮を一枚一枚剥がすように、長い年月をかけて無くなっていったんだと思う。
まったく、無くなった訳じゃないよ。
だけど、今はものすごく心のこの辺で、必要な物は必ずあるから大丈夫、って思えるようになったの。
それは、すごい進歩。
落ち着いたからね。「こんなに使っちゃって~」って思わなくなったもんね。

ここ銀行がないからね、銀行でお金を引き出す為に300キロくらい、バスで6時間行くんだけど、
そうすると宿泊をしたり、ご飯も食べたり、お金を使うじゃない?
ショッピングもするんだけど、その時に、前は、お金を節約してね、ちょっと安い宿に泊まったりして
いたんだけど、そうするとエネルギーが下がっちゃうのね。
ちょっと安いからこれでいいかと思うと、すごくうるさかったり、寒かったり。

ポールは自分をちゃんとトリートしてあげる(自分にご褒美をあげる)ってことが上手な人なのよ。
自分にケチケチして、ちゃんと自分を可愛がってあげていないっていうのが嫌なのね。
わたしは、そういう意識が全然ないのよ。
自分にいっぱいお金を使って可愛がってあげるっていう意識が無かったからね。

安い所に泊まって、お金をケチケチして、「節約ね、節約ね」って言ってると、
全然思いがけない所でドーンとお金が出て行くの。(笑)
「なーんだ、結局同じだったじゃない!」っていうようなね。
「じゃあ、あの時に食べたいねって思ったもの食べて、泊まりたいねって言ってたホテルに泊まったほうが、
よっぽど良かったんだね。」っていうことになる。

だから、町に出かけたらね、一番いいホテルに泊まって、美味しいもの食べて、ということをするようになった。
そうすると、一番いいホテルをネットで探すと、その時にキャンペーンでディスカウントだったりするの。
普段200ドルのホテルが、その時80ドルだったり。
ケチケチしなくなったら、そういう事が起こり始めたのよ。

「これだー!」ってね。
「使うときはパァーンと使って、わーっと楽しんで。心配しない。」って。
「ちゃんと必要な物は来るから。」っていう生き方。
こういうのがあるといいなっていうと、誰かが持って来てくれるとかね。
「これだぁ!」って味を占めてから、すごく楽しくてしょうがないの。

テレビの撮影に来たディレクターの人もすごく聞いていた。
「どうやって暮らしてるんですか? 失礼かもしれないけど、収入源を聞いてもいいですか?」
「貯金です。」
「えー、貯金だけですか?」
「そうです。」
「貯金、減りますよね?」
「貯金、減りますよねぇ」って言って。(笑)
「でも、減りそうになったら減りそうになった所で、なんか他に入ってくるんじゃないですかねぇ。」
「そうですかねぇ」って。(笑)

だけど、どっちがいいかってことよね。
減りそうになったら、なんとかどこからか入って来て、大丈夫なんじゃないですか、
そう思って生きていくか、貯金が無くなったら困る、と思ってしゃかりきに働いて生きていくか。
どっちかを選ぶとしたら、わたしは「無くなったら、無くなる直前あたりでなんか入ってくるんじゃないの?」って信じて生きてる方がいいなって、最近思うようになったね。

あと、うちの母親が、私と同じ巳年なのね。
母はいつも小さい頃から「巳年の人は絶対お金に苦労しないのよ。いつもお金が入ってくるのよ。」って、
わたしにね、呪文のように言い続けてくれたのよ。
それは、結構役に立つ。(笑)
ちょっと不安になると、「でも、お母さんが言っていた。巳年は絶対お金に苦労しないって言っていたから、
絶対そうだ。」って思うの。
振り返ってみると、ホント、これもおかしな事なんだけど、「無くなったらどうしよう」っていつも怖いのに、
無くなった事無いのよ。やっぱり。
だから、きっとそうなんだろうなってね。

ポールもね「木の実、巳年だったよね。巳年はお金に困らないんだよね。」って。「そうだよ。」って言うと
「ああ よかった。」ってね。(笑)

Wednesday, December 5, 2012

お台所に合わせた暮らし



木乃実:最初はね、すごい不便だと思っていたけど、やってみれば、いろいろ工夫して出来るもんだなぁと思った。
無駄なものは、いらないのかなぁと思ってね。

例えば洗剤もね、日本にいるときは手に優しいマイルド洗剤とかいろいろ使っていたけど、
ここではたらいで洗ったら、その水を畑にジャバーって流すからね。
使うのは、地元で売ってるグリセリン100%のポパイっていう赤ちゃん用の石鹸があるの、
香料も何も入っていないような石鹸ね。
それをちょっとだけつけて、ほんとにひどい汚れのときね。
そうでないときは、お湯でサササって洗って終わり。

何でも「これは畑に行くんだ。」と思うからね。
いつも気をつけて。
食べ残しは、パンで綺麗にお皿を拭いて。お湯で流してなんにも、食べカスとかはあまりたらいに入らないように、っていうのは考えるようになった。

そうするとね、洗剤を使わないから手もカサカサにならないし、クリームも全然使った事もないしね。
いまは、一個の石鹸で何でもやる。
洗濯も、頭をここで洗うときも、お湯を沸かして、バケツ二つ持って来て、蜂蜜の容器を使って、
まるで昭和の人みたいに、頭からお湯を掛けて一人で洗うんだけどね。(笑)
それも普通の石鹸できれいに落ちるの 前は石鹸だと髪がカサカサになるなんて思っていたけど、
まぁ、慣れるとそんなに気にならない。
石鹸で洗ったあと、ちょっと時間が経ったら、もう元のツヤツヤの髪に戻っているから、
そんなにいろんなものはいらないね。
シャンプーすると油分が全部抜けちゃうから、リンスとかしてコンディショナーを使う。
必要なもの取ちゃったから、後から化学製品で足しましょう、みたいになってるんだあって思ったの。
ポールは、石鹸も使わない。
全部お湯で終わり。
その方がカサカサにもならないし、無駄なものもいらないしね。

お料理もね、そんなに手の込んだものも出来ないから、畑にあるものを取ってきてサラダにしたり、
ちょっと炒めたりしてね。
パンは薪ストーブで焼くんだけど、薪ストーブも暖かい時はガンガン火を焚けないから、そういう時はトルティーヤを作ったり、工夫してね。

自分でパンを焼くと、このパンを食べる為にも、これくらいの薪=エネルギーが必要なんだとか、そういう事がよくわかってくる。
例えば、ご飯は炊く時に、すごくエネルギー使うよね。
うちはポールがご飯をそんなに好きじゃないから、ご飯ほとんど炊かないけど。

なるべくエネルギーを使わないもの、サラダとか、ちょっと簡単に煮えるものなんかを作る・・・ スープも前はね、野菜を大きく切って煮ていたけど、時間がかかるから、今はすごく細かく切る。
最初、細かく切ったいろんな野菜を全部お鍋にいれて、オリーブオイルとお塩をちょっと入れて
蒸し煮みたいにするの。
お水を少し入れてね。
そうすると、普通にお湯でスープ煮る時間の四分の一くらいで済むんじゃないかな。
すぐに柔らかくなる。 
その後トマトソースなんかを入れて、お湯入れて沸騰したら終わり。
すごく簡単な、でも、おいしい料理の作り方になったのよね。

昔はよく、献立を考えてお店に買いに行っていたけど、今はもうあるもので作る。
そうすると、夏から秋かな、一番野菜が採れる時は、ほとんど食費いらないもんね。